ハウツー

トランクルームにしまう前に! 
プロに聞くお手入れ方法

Vol.1
メンテナンスがモノを長持ちさせる。
モノをいたわり、人生に輝きをもたらす、靴磨きの愉しみ

いくつかのケアグッズと手順を一度覚えてしまえば、靴磨きは難しいケアではありません。

トランクルームには普段から自分が大事にしているもの、あるいは今は必要ないかもしれませんが、とっておきたいものを収納している人が多いでしょう。ファッション小物もそのひとつです。お洒落な男性は革靴をたくさんお持ちの方も多く、靴の保管にトランクルームを、と考えている方もいらっしゃるはずです。大事な靴を保管し、長持ちさせるためにはお手入れが必要です。プロに簡単なお手入れの仕方を教えてもらいました。

靴磨きは女性の化粧=メイキャップと理屈は同じです

お客様の靴を見れば、その方がどんな方かわかる──これはとあるホテルマンの言葉ですが、そのホテルマンは「クレームを出してくるのは、磨かれた靴を履いた人よりも、汚れた靴の人であることが多い」と続けます。この話が書かれた本は『靴磨きの教科書 プロの技術はどこが違うのか』(毎日新聞出版刊)。実はこの本を書いたのは株式会社R&D代表取締役社長の静孝一郎さん。株式会社R&Dは、シューケア用品ブランド「M.モゥブレィ」を販売するだけでなく、靴のお手入れ方法を広めるためにショップ展開している会社。言わば靴磨きのプロです。靴のお手入れ=メンテナンスを通じてモノを大事にする精神を聞きました。

『靴磨きの教科書 プロの技術はどこが違うのか』(毎日新聞出版刊)。革靴からスニーカーのお手入れとグッズの解説、靴紐結び方まで書かれた靴磨きの指南書です。

「昔は(靴磨きを)やる人自体も少なかったのですが、靴磨きがいろいろなメディアで取り上げられるようになり、靴磨きに興味がある人が増えてきました。それにエコな時代、モノを大事しようという流れもありまして、我々が作っているケアプロダクトにも興味を持たれる人がずいぶんと増えてきました」

靴磨きというと、布にワックスを付けて何度も磨き上げて仕上げるというイメージを持たれる人も多いと思いますが、静さんによれば靴磨きは女性の化粧に近いと思って間違いないと話します。

「ケア用品があまりなかった時代はワックスを全体に塗って、水を付けて、布やストッキングで光らせる。こんなやり方でした。これでは女性が厚化粧を繰り返すようなものです。一度古い汚れや蝋分を落として、油分と水分をすっと染み込ませて、靴の革に馴染ませて、最後に艶出しをするというのが普通の人には簡単です。もちろん使っている油脂は違いますが、方法としては女性の化粧方法と同じです。潤いと栄養を与えて、コンディションを整えた上でメイキャップ。コツをつかめば誰でも上達しますし、時間もかかりません」
靴磨きは化粧と同じと聞くと、靴磨きに対するハードルもグッと低くなります。普段やり慣れていない人でも挑戦したくなるのではないでしょうか。

ブラシと水性クリーナーと乳化性クリームがあれば靴磨きは簡単

それでは靴のなかでいちばん一般的な表革素材の靴の磨き方を株式会社R&Dの営業企画部の主任竹林賢人さんに実演していただきながら方法を教えていただきました。

①ホコリ落とし

馬毛のブラシを使って、ホコリを落とします。毎日履いた後にブラシをしてあげるだけで、靴は長持ちします。

靴磨きの第一歩は「ホコリ落とし」です。できれば靴の形を維持してくれる「シュートリー」を入れた上で、ブラシを使い、表面や縫い目などに入ったホコリをしっかり払い落とします。ブラシは柔らかく、毛足の細い「馬毛」がベストだと竹林さんは話します。

②汚れ落とし

指に布を巻き付け、水性クリームを少量付けて、靴の汚れを取っていきます。

「ステインリムーバー 」と呼ばれる水性クリーナーを使って表面の汚れと、革に入り込んだ古い靴クリームやワックスを丁寧に落としていきます。指2本に布を巻き、そこに500円玉サイズのリムーバーを出し、汚れを落としていきます。1回だけでなく、2回行いますと、2回目で革の表面に汚れがさらに浮き出てきますので、効果的です。クリームを塗り重ねていると皮革の通気性が損なわれ、劣化の原因にもなりますので、この作業はとても大事です。

③栄養補強

クリームを塗るのは、専用のブラシで。これも米2〜3粒と少なめに。塗り過ぎは禁物です。

乳化性クリームで皮革に栄養と潤いを与える作業で、表革=スムースレザーの重要な作業のひとつです。片足に靴に対して塗布用のブラシに米2〜3粒程度のクリームを付け、靴全体に薄く広く塗っていきます。クリームを多く塗った方が効きそうと思われる人もいますが、たくさん塗ってもクリームは皮革のなかには入っていきません。よくクリームを布で塗る人もいますが、布にクリームの水分を取られてしまうのでブラシの方がより効果的で細かな部分にも塗れます。

④ブラッシング

クリームを塗布した後は再びブラッシング。このときには豚毛か化繊の毛足が硬いものを。
ブラシは黒靴用と茶靴用の2種類を揃えた方がベターです。

次はブラッシングです。できればブラシは毛が硬くて、コシのある豚毛、もしくは化繊毛のブラシがベストです。仕上げのブラッシングで肝心なポイントはクリームを全体に伸ばして、皮革に馴染ませつつ、表面に残った余分なクリームを取り除いてやることにあります。これだけで靴のツヤが出てくるはずです。

⑤仕上げ

仕上げは磨き布で、ミトンタイプだと手を汚さずにすみますし、使っていくとクリームの油分が残り、サッと拭くだけでも簡単にきれいに仕上がります。
仕上げが終わったばかりの靴です。新品のような輝きを取り戻しました。
表革のケアに使うグッズ用品。水性クリーナーと乳化性靴クリーム、ブラッシング用のブラシが2種類で、小さいブラシは塗布用。磨き用のミトンがあると手を汚すことはありません。

ブラッシングしただけでは表面のクリームが取り切れていませんので、柔らかい布、あるいはミトン型のクロスで軽く靴を磨き上げていきます。余分なクリームを取って表面が滑らかになると、ツヤも鮮やかになり、皮革の通気性も増しますので靴にも優しい。あとは撥水スプレーをかけてやると、防水効果だけでなく、汚れも付きにくくなります。

最後に静さんに革靴の適切な保管法を聞きました。

「靴の収納は通気性が良い場所外ベストです。下駄箱などに収納する際にも棚にスノコなどを敷いて空気の流れを作った方がいいでしょう。もし靴箱に入れて保管するのならば、箱に穴を開けるとかもいいですね。良い革はお手入れをしてやればすごく良くなりますが、逆に劣化もしやすい。柔らかい革はキズも入りやすいが、回復力もある。やったらやったなりの見返りが必ずあるものです。だから良い革製品を手に入れたら、ケアとセットで考えて欲しいものです」

靴のカビ対策グッズが最近ヒット中。「プロの方も使っています」と竹林さん。靴を収納する前に使ってみてはいかがでしょうか。

靴磨きの手順はそれほど多くはなく、時間も長くはかかりません。「自分で磨けば、自ずと革の良し悪しまでわかるものです。磨き上げた靴を履けば外に出かけることも楽しくなり、人生も輝くものです」と静さんは断言します。
どうです、あなたも一度、自分をアゲてくれる靴磨きの愉しみを味わってみませんか。

今回、革靴の手入れを教えてくれた株式会社R&Dの直営店FANS.

FANS. 浅草本店
東京都台東区雷門2-13-4 岡本ビル
TEL.03-5811-1831
営業時間 10:00〜18:00 火曜定休
シューケアマイスターもいるので、収納する靴が多い場合は、お手入れをお願いすることも可能です。

取材・文/小暮昌弘 撮影/稲田美嗣

ピックアップ記事

関連記事一覧