生き方

モノとひとの素敵な関係 捨てられない宝物

Vol.2
着物デザイナー・コーディネーター
池田由紀子さん

今はもう使わないけれど、なかなか捨てられない。他人から見たらなんの魅力も価値もないのに、自分には愛着がある、見るたびに初心に返る、心華やぐ、心落ち着く。あるいは思い出がつまっている。皆さんが大切にしまってあるそんな“捨てられない宝物”をご紹介!  今回は「時代布と時代衣裳 池田」店主で着物デザイナーでもある池田由紀子さんの宝物を拝見。稀代の和装小物コレクターとして知られる、お母さま、故・池田重子さんとの思い出と共に披露していただきました。

日本の美意識を宿す、母から受け継いだ帯留

プロフィール
着物、和装品コレクターとして知られる故・池田重子さんの次女として誕生。国立音楽大学卒業後、オランダに留学。帰国後結婚し、主婦として家族を支えた後、母・重子さんの後を継ぎ、2015年「時代布と時代衣裳 池田」店主に。2017年には新ブランド「池田スタイル」を発表。美容家でタレントのIKKOさんが着るきもののデザイン・制作も手掛けている。

琥珀と彫金でできたアンティークの帯留

「池田重子」。きもの好きなら一度は聞いたことのあるその名前。明治から大正、昭和初期に制作されたアンティークのきものや帯、和装小物のコレクターとして知られた存在です。

その池田重子さんを母に持ち、自身も着物デザイナーとして活躍しているのが次女の池田由紀子さん。由紀子さんが宝物のように大切にしているのが、お母さまから譲り受けた帯留。

「母がコレクションをはじめたのも帯留が最初だったんです。帯留は廃刀令で職を失いかけていた金工師や鍔工師達がその技術を披露する場として見出した場でもあるんです。武士の誇りである刀に用いられていた技が踏襲されていると思うと、単なるお洒落に留まらない、歴史の担い手のような気持ちにもなります」

 そんな由紀子さんがとくに大切にしているお気に入りが柿の帯留。

「柿の実は琥珀、葉はゴールドとシルバーの彫金で仕立てられているのですが、アールヌーボー調でとてもお洒落。なんといっても、柿の実がぽってりとして、美味しそうでしょ(笑)。帯留にしては大きくて存在感もある。背が低く、きものは落ち着いた色目の紬が好きな私でも、じゅうぶんに楽しめるボリューム感が気に入っています。おそらく昭和初期に作られた帯留だと思うのですが、貴重なものだからとしまっておくのではなく、私の場合はお洒落を楽しむアイテムとして普段から身に着けています。

紬は洋服で言えばTシャツにジーンズといったとてもカジュアルな装い。そこに一粒ダイヤモンドのネックレスを加えるだけで一気に女性らしさが増しますよね。この柿の帯留も同じ。普段着に女性らしさと華やかさを与えてくれ、さらに日本的な情緒と技術も見ることができる。帯留を通してきものを着る楽しさや意味を自分が感じ、人にも伝えていきたい。そう思える大切なアイテムでもあるんです」

きものを自由に楽しむ。それがモットー

母親譲りの美意識を生かし、着物デザイナーとして活躍する由紀子さんですが自身がきものを仕事にするようになったのは十数年前からだそう。

「独身時代は音楽に没頭し、結婚後は主婦業に。ところが病気で夫が他界して。世間をほとんど知らずに過ごしてきた私の身を案じた母が、お店を手伝ってくれないかと声をかけてくれたことがきっかけでした。母のコレクションには年代物の貴重なきものや帯などがたくさんありますが私がいちばん心惹かれるのが帯留。

手のひらに乗るほどの小さいものなのに、そこには季節感や縁起を担いだものなど作り手の技術や思いとともに日本人の美意識が凝縮されていて。そのこだわりに気づいたとき、日本人ってなんて情緒豊かな国民なんだろうと、誇らしく思えたんです。帯留からきものの魅力や日本の伝統美を伝えていきたい。そう考えるようになり、今があります」

 2万点はあると言われているお母さまのコレクションの中から由紀子さんが譲り受けた帯留はそうした日本らしさを感じるものがたくさん。

「水晶の帯留は母が夏によく着けていたものです。浴衣に名古屋帯をお太鼓にして水晶の帯留を合わせて足元は下駄。そんなスタイルで銀座に買い物に出かけたりもしていました。浴衣で街歩きすることを疑問視する方もいるかもしれませんがこれが“池田スタイル”。ルールやしきたりに囚われすぎず、自由に楽しむことがモットーです。

紅葉の帯留は流水模様の帯に合わせて、緋銅の色とリンクするインド更紗の羽織でコーディネート。小さな帯留を主役に色や柄の組み合わせで季節感を楽しむのもきものならではですよね。そうしたきものの楽しさや奥深さを私はこの帯留で味わうことができているんです」

話題の人気アニメを着物で楽しむ

写真のコーディネート、実は大人気のアニメ『鬼滅の刃』をイメージして由紀子さんがコーディネートしたものなんです。

「麻の葉模様の着物に市松模様の帯といえば、そう、ヒロインの禰豆子ねずこちゃんです。麻の葉模様も市松模様も伝統的な柄ですが、カジュアルでモダンな雰囲気が魅力ですよね。このコーディネートのポイントは帯留め。禰豆子ねずこちゃんが口にくわえている竹を帯留めのモチーフに選びました。竹という、シブいモチーフも、帯揚げと同じ緑の三分紐と合わせることで全体を引き締めるアクセントに。柄や色で楽しめるのもきものの魅力です。『鬼滅の刃』をきっかけに、着物に興味を持ってくださったら嬉しいな、などと考えながらコーディネートしてみました」

「婦人画報」(オンライン)の連載でも紹介されています
https://www.fujingaho.jp/uts-kimono/g35213845/ikedayukiko-210127/

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収納にもこだわって日本の様式美を感じさせる帯留用たんすに

使う頻度の高い帯留の収納に、由紀子さんが使っているのはケヤキで作られたミニ箪笥。昭和初期頃に製作されたものだそう。
「シンプルで美しい様式美がまさに日本的。持ち手や扉、段ごとに高さの違うひきだしなど、100年近く前のものとは思えないほど出し入れがスムーズ。“由紀コレ”をしまって置くのにもちょうどよい大きさなんです」

取手が中にしまえる
中には仕切りが

由紀子さんのコレクション、“由紀コレ”は季節の草花や果物のほかに、ユニークなものもたくさん。

「閻魔様にお裁きを受けている姿が描かれたものやいろんな種類の豆が組み合わされたものも。このお豆の帯留めはどんな意味があるか分かりますか? 『まめまめしく働けますように』と商売繁盛を願ったものなんです。昔の人のシャレも粋ですよね。ものづくりのこだわりとともにユニークな発想も大切に受け継いでいきたいと思っています」

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『時代布と時代衣裳 池田』

1976年開業の和装店。着物や帯のリサイクル品が揃うとともに、仕立てやデザイン、コーディネートなども行う。創業者である故・池田重子さんの美意識を受け継ぐ二代目店主、池田由紀子さんの自由でお洒落な発想によるスタイリングも人気。
きもの¥2,000~、帯¥2,000~、振袖¥40,000~ 帯留め¥5,000~

東京都港区白金台5-22-11-101
TEL03-3445-1269
https://ikeda-kimono.com/

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撮影/野地康之 取材・文/堀朋子

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