生き方

後世まで受け継ぎたい、モノを大切にする日本の伝統文化
「金継ぎ」

欠けた器を修復する「金継ぎ」という技術は、古来より受け継がれてきた日本の伝統文化。モノを大切にすることの素晴らしさや楽しさが見直され、器好きの間では、今、密かな人気となっています。
そこで、「金継ぎ」の魅力に迫るとともに、現代風の金継ぎを見せていただきました。


日本の伝統文化「金継ぎ」とは

「金継ぎ」は、陶磁器やガラス製品が欠けたり、割れたりしたとき、接着剤のような効果がある漆で修復し、金粉や銀粉をかけて仕上げる技術のことです。漆で修復する技法は縄文土器にも見られますが、金継ぎの技術が生まれたのは室町時代頃といわれています。
金継ぎが大きく発展したのは、安土桃山時代から江戸時代初期にかけての「茶の湯」の時代です。「茶の湯」では、あえて修復した部分を金で装飾して目立たせることで、傷痕を器の“景色”として楽しみ、その美しさを追求しました。
モノが豊かになるにつれ、金継ぎの習慣はなくなってしまいましたが、「モノが壊れても直して大切に使う」という考え方と日本の美意識が見直され、日本や海外で、金継ぎの技術が注目されています。
そこで、東京で金継ぎのワークショップを開催している笹原みどりさんにお話しを伺ってみました。

お話を伺ったのは笹原みどりさん

プロフィール:
金継ぎ Oh! LaLa (キンツギウララ) 主催。
武蔵野美術大学(芸能デザイン学部を)卒業し、広告、CM、雑誌等でフリーランススタイリストとして活躍。10年前から金継ぎを始め、国内外での展覧会に出展。8年前から金継ぎの講師としても活躍し、ワークショップなどを開催。

趣味が高じてワークショップを開くまでに

笹原さんが金継ぎを始めたのは10年ほど前。壊れた器を、自分で修復してみたのがきっかけだったそうです。
「市販の金継ぎセットを購入したのですが、そのときは全然うまくできなくて・・・。それで、金継ぎを教えてもらいに行ったのが始まりです。大事な器が直ったときの達成感、壊れたモノを直す楽しさ、金継ぎの魅力に、あっという間に引き込まれていきました」
そのうちに、知り合いなどから器のお直しを引き受けるようになり、ワークショップをやらないか?と依頼されるまでになりました。
「お客様や生徒さんが、きれいに直った器を見て喜んでくれることがやっぱり嬉しいですね」
今では金継ぎの講師として活動し、ワークショップや展覧会等を開催するようになりました。

本金継ぎと現代風金継ぎの違いとは?

古くから伝わる本金継ぎで使われているのは、『本漆(ほんうるし)(漆の木の樹液)』です。
本金継ぎは、急に乾かすとひびやムラになるため、室(むろ)と呼ばれる場所で、一定の湿気、温度を保ちながら丁寧に時間をかけて乾かします。完成まで2ヶ月くらいかかりますが、時が経つにつれ、強度が増すのが特徴です。
しかし、それでは手間と時間がかかるため、現代は、『新うるし(合成樹脂)』を使った現代風金継ぎも行われるようになりました。『新うるし』は、釣竿の修理や塗装にも使われている塗料の一種です。
「『本漆』は直接肌に触れるとかぶれるので手袋を使いますが、『新うるし』はその心配がなく、乾かす工程が少ないので、1日で完成します。しかし、安全性は劣りますので、口に当たる部分に使用するのは避けた方がよいでしょう。お手軽に始めるなら現代風金継ぎ、慣れてきたら本金継ぎに挑戦するのもよいですね」(笹原さん)

金継ぎができる器はどんなもの?

陶磁器であれば、ほとんどのものが金継ぎできますが、金継ぎに向かないのは、土鍋のように直に火をかけるものです。

▲折れたワイングラスの脚を金継ぎで修復。元々こんなデザインだったような美しい仕上がり。(笹原みどり先生インスタより)

現代風金継ぎを手順

金継ぎをするもの

結婚式でいただいたペアガラスのうちの1つで、洗いものの最中に誤って破損した津軽びいどろのグラス。津軽びいどろは、1つ1つハンドメイドで作られているため、同じものを手に入れることはできない。気に入っていたのにもう捨てるしかないと諦めかけていたが、金継ぎで再生にチャレンジ。

1.破片を仮止めする

割れたりかけたりした破片を、パズルのようにはめこみ、テープで仮止めします。

ポイント:ここでズレていたり、隙間があったりすると、実際に器を使用するときに水が漏れたり、きれいに仕上がらなくなるので丁寧に!欠片をぴったりとくっつけることが重要です。

2.割れ目に接着剤をつける

破片の割れ目に接着剤をつけます。隙間を埋めるようにつけます。
*陶磁器とグラスでは違う接着剤を使用します。

穴があればパテ埋め

割れた破片がなかったり、穴が空いている箇所があればパテを使用して、穴を埋めます。パテは1分ほど指で練り、穴や欠けている部分に埋め込みます。
*津軽びいどろはパテ埋めなし

3.接着剤を固める

ガラス製品の場合:ブラックライトを接着剤の部分に照射して接着剤を固めます。
陶磁器の場合:ガラスの粉を接着剤の部分につけて細かい隙間を埋めます。

4.はみ出た接着剤やパテを削る

器の表面が平らになるように、カッターや彫刻刀ではみ出た接着剤やパテを削ります。

ポイント:はみ出た接着剤やパテを、すべてきれいに削りとることが大切。手を切らないように気をつけながら、すべて削り取ります。

5.表面を滑らかにする

紙やすりに水をつけて、表面を滑らかにします。

ポイント:ガラス製品の場合は、紙やすりをかけすぎるとすりガラスのように表面が白くなってしまうので、目の細かいやすりを使用し、かけすぎないように注意します。

6.新うるしを塗る

新うるし・真鍮粉・うすめ液を混ぜたものを、接着部分に細く、筆で塗ります。
もし太くなってしまったり、間違って塗ってしまっても、綿棒で拭き取れば、妥協せず納得いくまで、何度でもやり直しができます。

色は、金・銀・黒があり、器のデザインに合わせて選びます。

ポイント:線が太いと不格好になってしまうので、できるだけ細く!塗るのがポイント。

7.修復終了

これで現代風金継ぎ作業は終了!妥協せず何度もやり直し、納得のいくものが出来ました。細い線が美しさのポイントです!

8.乾燥させる

3〜4日間乾かせば完了です。ワークショップでは、紙袋や箱に入れて持ち帰り、自宅で乾かします。

9.完成!

割れてしまった大切な津軽びいどろのグラスが、こんな形で再生できました!
金のラインもデザインの1つとなり、これまでとは違った雰囲気が生まれて、素敵なグラスになりました。

▲グリーンの津軽びいどろのグラス。金継ぎのおかげでまたペアで使えます。

一番大切なのは、“美しく”仕上げること

笹原みどり先生は、元々スタイリストという職業だったこともありますが、本来の金継ぎの魅力である日本の美意識についても伝承していきたい、とお考えです。
「せっかく直すのであれば、ただくっつけるだけではなく、美しく仕上げるように心がけています。壊れたものを自分の手で直すことにより、より愛着を持つことができるのと、元の形に戻すだけではなく、美しく生まれ変わらせることができるのが、金継ぎの魅力ですね」。


金継ぎのワークショップについて

今回、金継ぎ体験をさせていただいたのは、日本の伝統文化のお稽古教室と甘味屋の『小苦樂こくら』です。
本金継ぎ、現代風金継ぎ、ご希望の金継ぎが体験でき、年齢、性別、国籍に関係なく、さまざまな方が参加されるそうです。
先生が回りながら教えるスタイルなので、自分のペースでじっくりと作業ができます。この日も、和気藹々と楽しい雰囲気の中で金継ぎが行われていました

ワークショップの詳細と申込について

参加所要時間:約2時間
参加費用:7,100円(材料費/税込)・・・受講当日に現金にてお支払い
割れたり欠けたりした手持ちの器で金継ぎを行います。
*器がない場合はワークショップでの購入も可能(1点500円~)。

※緊急事態宣言などにより開催予定が変更になる可能性がございます。発熱・体調の悪い方はご参加をご遠慮ください。

詳しくはインターネットをご参照ください。
小苦樂のHP:https://www.kokura-bluecampjapan.com/news

笹原みどりさんのインスタグラム:@midorigomisasahara

自宅で現代風金継ぎが楽しめます

笹原みどりさん監修の 現代風金継ぎスターターキット販売中
「ツナガル、きっと」¥7,700(税込)https://usatora.tokyo/000000002-2/

初参加したPさんのお話

大使館で働く外交官のPさんは、元々、『小苦樂』で開催されている着付け教室に通っていたのが縁で金継ぎのワークショップに参加されました。
「一目惚れをして購入した花瓶があったのですが、日本に引っ越すとき、梱包の不備で、木っ端微塵になってしまって……。そんなときに、金継ぎのワークショップのことを知り、お気に入りの花瓶を直して、また使いたいと思い、参加しました」

▲来日の際、木っ端微塵となった花瓶。運良く、小さな破片まで残っていました。
▲小さな破片もきれいに修復し、見事に再生!金継ぎが素敵なデザインに。

金継ぎで、器の魅力がさらにアップ!

「粉々に割れていたのに、自分できれいに修復できたのがとても嬉しいです。しかも、アート作品のようにとてもおしゃれに仕上がったので、元の花瓶よりもさらにお気に入りになりました。先生も参加のみなさんも明るくて、とても楽しかったです」とPさん。
「茶色の花瓶に金のラインがとても映え、華やかになりましたね!」と先生や参加のみなさんからもお褒めの言葉をいただいていました。

愛着あるものを大切にする心は、各国共通

お仕事柄、さまざまな国を飛び回っているPさん。その度に、家財道具を用意したり処分するのは大変です。
「いつも海外赴任の際には、持っていけない家具の収納場所としてトランクルームを利用しています。トランクルーム(英語ではセルフストレージ)はアメリカ発祥と言われていますが、実際、祖国のアメリカでは、トランクルームを使っている人は多いですね。」
トランクルームを利用することで、モノを安易に捨てたりせず、大事に使っているようです。
愛着ある大切なモノを長く使いたいという気持ちは、各国共通。
大事な器を修復し、別の姿として再生できる金継ぎの技術は、世界各国に広げたい、日本の大切な文化といえるでしょう。

全国のトランクルームを探すにはこちら
https://www.hello-storage.com/list/

写真&取材:クラスル編集部  文:福井順子

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