生き方

モノとひとの素敵な関係 捨てられない宝物

Vol.3
スタイリスト
弓桁いずみさん

今はもう使わないけれど、なかなか捨てられない。他人から見たら価値や魅力がわからないけれど、自分には愛着がある、見るたびに初心に返る、心華やぐ、心落ち着く。あるいは思い出がつまっている。皆さんが大切にしまってあるそんな“捨てられない宝物”をご紹介! 

今回はスタイリストの弓桁いずみさんの宝物を拝見。どんなエピソードを秘めたアイテムなのでしょうか。

20年以上たった今、ありがたみを実感する父からの贈り物

プロフィール
1977年生まれ。静岡県出身。スタイリストの青木貴子氏に師事し、23歳で独立。『美人百花』『andGIRL』などのファッション誌、『にじいろジーン』、『ヒルナンデス』といったテレビ番組をはじめ、カタログ、webのスタイリングを担当するなど幅広く活躍。骨格診断やパーソナルカラーアナリスト、顔タイプアドバイザーなどの資格を持つ。
Instagram:@izumiyumigeta

中学生のときに父から贈られたクラシックCD

弓桁さんにとって最近のお気に入りタイムは、コーヒーを飲みながら、クラシック音楽を聴く朝の時間。その時にかけているCDが今回ご紹介する弓桁さんの宝物。

▲名画があしらわれた美しいCDのセット

「クラシック音楽のCD全集なのですが、実は私が中学3年生のときに父からプレゼントされたものなんです。『クラシック音楽は脳を活性化させるから、これを聴けばきっと成績アップにつながる』と。娘のためにという親心ですよね。

ドンと渡されたボックスの中にはモーツァルトやベートーベンなどクラシックの名曲CDが100枚。

ジャケットの表紙はモナリザなどの名画になっていて、中には曲とともに絵の解説が書かれたブックも。とはいえ、聴く音楽はJ-POP、読み漁るのはファッション誌という女子中学生がクラシック音楽に興味を持つこともなく…。結局、一度も聴くことなくそのまま放置していました」

「CDを聴きたいというより、父親からのプレゼントを手もとに置いておきたいと思ったんです。段ボールから出して部屋に飾ったものの、やっぱりクラシック音楽を聴くことはありませんでした。それでもいいと思っていて。いつかクラシック音楽に興味を持つときがくるかもしれないから、それまでは部屋のインテリアとしてディスプレイしておこうと。

これまで5回も引っ越しをしたのですが、その間、一度も手放すことは考えませんでした。

実家にいる父親の代わりにそばで自分を見守ってくれている、そんな存在になっていました」

▲高校を卒業後、進学のために実家を離れた弓桁さん。東京の寮へ送る荷物に聴かずにいたクラシック音楽のCDを入れたそう。

ここ最近、弓桁さんに大きな変化が。お父さまからプレゼントされてから20年以上経った今、とうとうそのCDを聴くようになったのだとか。

「40代になってようやく“その時”がきました(笑)。ふと、過去の名曲や名画に触れて教養を身に付けたいなと考えるようになったんです。心と時間に余裕ができたということなのかもしれません。

週末、清々しい朝陽の中で夫と一緒にモーニングコーヒーを飲みながらクラシック音楽を聴く。この時間が今の私にとって最高に幸せを感じるひとときになっています。

『この曲を聴こう!』というよりも、ラックの中から何も考えずに手に取ったCDをかける。そして、ブックレットを手に、それぞれの曲が創られた時代や誰のために作曲されたものかなど、曲の背景を知りながらじっくりと聴く。何百年も前に完成し、今も多くの人が演奏し、親しまれる曲の歴史を知ることで音楽の深みを知る。そんなクラシック音楽の醍醐味をようやく味わえるようになりました」。

その変化はどうやっておとずれたのでしょうか。

「これができるようになったのは、自分自身が社会経験、人生経験を積んだからなのかな。機が熟したとはまさにこのこと! それまで大切に持ち続けてきて本当によかったです。今度、実家に帰省したときにはあらためて父親にお礼をしようと思います。果たして父はこのCDのことを覚えているかしら(笑)。それを確かめるのも楽しみです」。

column

今も手もとにある祖父母の形見の時計

家族への思いが人一倍強い弓桁さん。実家で一緒に暮らしていたお祖父さま、お祖母さまの形見の時計は今も大切に持っているそう。

「両親が共働きだったこともあり、おじいちゃん、おばあちゃん子だったんですよね。学校から帰るとミルクコーヒーを飲みながら一緒に水戸黄門などの時代劇を見て過ごしたり、春先には裏山に山菜取りに出かけたり。手先の器用だったおばあちゃんは私のお気に入りのバービー人形のお洋服を作ってくれて。バービー用に浴衣も縫ってくれたんです。

そんなおじいちゃんは私が小学6年生のときに、おばあちゃんは高校3年生のときに亡くなってしまいました。大好きだったおじいちゃん、おばあちゃんをいつも身近に感じていたいと、形見分けしてもらったのが二人の愛用していたこの腕時計。おばあちゃんからもらったビーズの小銭入れに入れ今も大切に持っています。

この二人がいるから今の私がいる。二人の写真と形見の腕時計を見ると自分のルーツを感じて気持ちが落ち着くんです。

今年はコロナの影響もあってお墓参りにも行けず…。なのでこの時計に向かって『いつも見守ってくれてありがとう』と手を合わせています」

結婚式の思い出が蘇るドレスとブーケ

2019年3月にバリで結婚式を挙げた弓桁さん。挙式で手にしたブーケとパーティのときに着たドレスは大切な思い出として手元に残しているそう。

「南国のイメージに合わせたブーケはアーティフィシャルフラワーを使って自分で手作りしました。ドレスは風に揺れるフリンジとサラリと着れるシンプルなデザインが気に入って購入。結婚式に向けて自分でコーディネートを考え、浅草橋まで行ってブーケの素材を手に入れ、それを束ねて…と式当日を待ち望みながら準備をしたことを今でも思い出します。

結婚式の思い出は写真でも振り返られるのですが、当日手にしたブーケやドレスはよりそのときの感情が蘇ってくるんですよね。

結婚生活ってどうしても新鮮な思いが薄らいでいきますよね。だからこそ、このドレスやブーケを見てフレッシュな気持ちに立ち返ることはとても大切。これからも夫婦の原点として大切に取って置こうと思っています」。

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撮影/野地康之 取材・文/堀朋子

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